The following post is written in Japanese.
By Tomoko Ouchi.
好奇心を高め、より主体的に、協力的に働く:The Question Formulation Techniqueのビジネス分野への活用
問いが生みだすもの
「コンサルタントとしての私の最大の強みは、無知になっていくつかの質問をすることだ。…経営上のもっともよくある間違いは、正しい答えを見つけられないことではく、正しく問えていないことだ」
— ピーター・ドラッカー
ビジネスで成功するには、いつ、だれに、どのような質問をするのか、そして、どのような問いを立てるかが鍵です。過去から現在に至るまで、歴史家から科学者、コンサルタントからイノベーターまでさまざまな人が、発展し続けるためには優れた問いが欠かせないと語っています。
質問や問いは、ビジネスリーダーや学者など限られた人にのみ重要なわけではありません。よい質問をし、優れた問いを立てることは、日々の生活のなかで役立ちます。質問をすること、問いを立てることは、知識を得て、それを応用し、行動し、成長していくために欠かせないものです。The Question Formulation Technique (QFT/質問づくり) を経験して問いの立て方を学んだ高校生は、QFTが学校での学びだけでなく将来とても役立つものになると述べています。『たった一つを変えるだけークラスも教師も自立する「質問づくり」』で紹介されているQFTは、学校で子どもたちの好奇心や参加、主体性や協調性を高めることに効果的なだけではなく、ビジネスやイノベーション、そして毎日の生活で生涯学び続けていくために役立つツールです。
「いろいろな視点へと導いてくれるということにおいて、質問をすること、問いを立てることは大切です。問いは、新しい情報を見つけるのに役に立ったり、新たな問いへと誘ってくれます。質問ができること、自分の問いを立てられることは、人生を変えてくれるものです。考え方や行動をよりよいものに変えたり、知識を探究し広げていくことで、将来に役立ちます」
— マサチューセッツ州の高校生
最近では、問う力に関するビジネス書も増えてきており、『人を動かす、新たな3原則 売らないセールスで、誰もが成功する! 』(ダニエル・ピンク著)や『Q思考――シンプルな問いで本質をつかむ思考法』(ウォーレン・バーガー著)などでもQFTやRQIに言及されています。
好奇心をもって働くために
「知りたいと思いつづけていれば、好奇心は新たな方向に導いてくれる。そして、新しい扉を開け、新しいことに挑戦し、前進し続ける」
— ウォルト・ディズニー
ビジネスやイノベーション分野では、ここ数年「好奇心」という言葉をよく耳にします。好奇心が独創的な発想につながるとともに、問題意識を引き起こし、課題の解決に貢献し、ビジネスチャンスを生むと言われます。多くの場合、問うことが好奇心の表れだとされていますが、好奇心を高めるためには何ができるのでしょう。
世界経済フォーラム は複雑な課題に対応するため、2020年に仕事に必要な10のスキルを挙げ、子どもの好奇心を育てることが大切だと述べています。報告書では、子どもたちが問いを出し、探究することが好奇心を育む方法の一つだと触れられています。また、教育の場を越えて、従業員がどの程度好奇心をもって仕事に臨んでいるかに注目する企業が増えてきており、好奇心の指標としては質問すること・問うことが使われています。
ドイツを本拠地にする製薬会社メルクは、2015年に「好奇心に関する初の報告書」を発表し、会社にとって、そして科学技術の発展において好奇心が欠かせないと捉えています。メルクのアメリカ従業員のアンケートでは、90%以上の人が好奇心の高い人のほうが、職務でアイディアを形にでき、昇進する傾向があると答えています。仕事に好奇心をもつことの恩恵を認識している一方で、過半数がどのようにしたら好奇心を高められるのかわからないと答えています。さらに、3分の2の人が仕事上で質問をするのには抵抗があると答えています。
「大切なことは、問いつづけることだ。好奇心はそれ自体に存在理由がある。永続性や生命、現実世界の驚くべき構造の謎について思いめぐらすと、畏敬の念を感じずにはいられない。日々、これらの謎のほんの少しを理解してようと努めるだけで十分だ」
— アルバート・アインシュタイン
ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR) では、仕事での好奇心の恩恵と好奇心をもつうえでの障壁について述べられています。「組織にとって好奇心はこれまで考えられていた以上にずっと重要なものだ」と語られいますが、アンケートからは4分の3の従業員が仕事に好奇心をもてないでいることが指摘されています。HBRでは、好奇心を高めるために5つの方法が挙げられていますが、どれも探究心を刺激し、問うことに関係しています。
このように、好奇心をもつことは、今の、そしてこれからの社会にとって欠かせない性質です。好奇心の高い人は、他の人に質問をし、そして、自分自身にも多くを問い、探究し、学び、成長します。好奇心と問うことは、表裏一体の関係のように語られますが、意識的に問いを立てる時間をつくり、訓練していけばどうなるでしょう。
「常に答えにたどり着くとは限りませんが、問うことによって好奇心が生まれます。好奇心は、たとえ意識していなくても、子どもが学びたいと思えるようにしてくれます。答えを知っていることは学ぶときの障壁となりこともありますが、問いは予期しなかった知的冒険や今までに考えもしなかったことにつながることがあります。問いは、新たな興味へと導いてくれます。たとえ気づいていなくても、すべては問いから始まります」
— マサチューセッツ州高校生
RQIのビジネス向けのセッションは国を越えて
RQIチームは、この6か月の間に直接の依頼に答える形で、アメリカのWeWork、ドイツのメルク、日本のマインドフルリーダーシップインスティチュート(MiLi)にて、ビジネスとイノベーションのためのQFTセッションを行いました。これらの企業は、分野も文化も異なり、QFTを学ぶ目的も違ったものでした。1時間のQFTのオンラインワークショップから1日のトレーニングまで、個々の企業の要望に応じて内容が組み立てられました。
2014年に実施したマイクロソフトでのセッションも含め、ビジネス向けのセッションでも一貫して好意的な評価をいただいており、WeWorkとMiLiのセッションのほぼ90%の参加者が問う力が向上したと答えています*。
参加者の声
「この手法で、創造的に課題を解決するための筋道がわかりました。チームで参加したので、問いを立てるための言葉や手法を共有することができました」
「このトレーニングでは、今までにない新しい方法で考えさせられました」
「人はだれでもイノベーティブになれるとわかりました」
「…課題に対する問いを立てることで今本当に向き合うべきことがクリアになりました。人や組織の健全化、又は成果創出において能動的なモチベーションを生み出せるワークだと思います…」
ビジネス向けのセッションの参加者からは、QFTを使って問う力を高めるのみならず、課題発見・解決、個人の目標設定、チームのモチベーション向上、同意を得るなど、さまざまな目的でQFTを利用したいとの声が聞かれました。さらに、上記の参加者の声に加えて、「質問をしてもいいのだと自信をもてるようになった」「協調性が促進された」などの職場の文化を変えるうえでもQFTが役立つことが示唆されています。これは、QFTが社会的心理的側面にも貢献できることを物語っています。
問うことで好奇心を生み、より主体的に、より協力的に働ける場をつくる
問うことに肯定的な職場環境をつくり、好奇心や探究心を促すことが重要です。質問したり、質問されたりすることについて気まずいこともあるかもしれません。QFTは、経歴や立場、知識や考え方が異なる職場でも、質問し合う環境を醸成しやすくするツールでもあります。
好奇心は、すべての人々が自然に保持できるわけではありません。先のHBSの研究では、同じ仕事を長く続けるほど、好奇心が低くなることがわかっています。好奇心を維持するために意識的に訓練する必要があります。周囲に、そして自らに問い続けていくことによって、好奇心を維持し、高めていくことが大切です。それが仕事へのモチベーションを上げ、より主体的に積極的に取り組むことにつながります。
自分自身に問い、周囲やチームで質問をし合う習慣は、広がりやすいものです。自分自身がチームや職場での先駆けとなって、問う力を磨いていくことで、よりよいコミュニケーションが生まれ、効率的かつ効果的な働き方につながることでしょう。
お問合せやご要望がありましたら、contact@rightquestion.org までお寄せください。日本語でもお受けいたします。
*WeWorkとMiLiのセッション後のアンケート結果を示しています。メルクのセッションでは、時間と技術的な制約上、アンケートは実施されませんでした。
参考文献
- Francesca Gino, 2018. “The Business Case for Curiosity”, Harvard Business Review (https://hbr.org/2018/09/curiosity) September–October 2018 Issue, Boston, MA: Harvard Business School Publishing. (最終アクセス日:2019年7月15日)
- Merck KGaA, Darmstadt, Germany, 2015, “Merck KGaA, Darmstadt, Germany Presents First Curiosity Report in the U.S. to Help Drive Innovation”. http://www.multivu.com/players/English/7648551-merck-kgaa-smarter-together/ (最終アクセス日:2019年7月15日)
- The World Economic Forum, 2016 “New Vision for Education: Fostering Social and Emotional Learning through Technology” http://www3.weforum.org/docs/WEF_New_Vision_for_Education.pdf (最終アクセス日:2019年7月15日)
- イアン・レズリー著、 須川綾子訳、2016年、『子どもは40000回質問する ーあなたの人生を創る「好奇心」の驚くべき力』、光文社。
- ピンク、ダニエル著、神田 昌典 訳、 2013年、『人を動かす、新たな3原則 売らないセールスで、誰もが成功する! 』、講談社。
- バーガー、ウォーレン著、鈴木 立哉訳、2016年、『Q思考――シンプルな問いで本質をつかむ思考法』ダイヤモンド社。